「本当に、見つかってよかったね」
まだゾッとした気分を背負ったまま、母に改めてそう言うと「本当、本当。あれに気付いてくれた方に感謝してもしきれないわ」と返ってきました。

そうは言っても、乳がんである事に変わりはないのです。
これから母の闘病が始まるのです。

いくら95%の生存率とはいえ、5%の方は亡くなっているわけですし、そうでなくても辛い治療を乗り越えなければならないという試練を突きつけられたわけです。

「抗がん剤だね」
「うん、手術でちょこっと取っておしまいってわけにはいかなかったね」
私と妹は互いにそう零して、母の身を案じました。

当の母は「お母さんね、今がんになって良かったって思うよ」などと言い始めて、一体何を言い出すんだこの人は、と私たち家族を仰天させました。

「だって、あと10年若かったら、お父さんはまだバリバリ現役だし、あんたたちまだ小学生と高校生だもの。それにあと10年遅かったら、がんの進行も遅いかもしれないけど手術受けられる体力が残ってるか分からないもの。あと1年検診で気付いてもらえるのが遅ければ、もう手遅れだったかもしれないし、そういう意味で、今このタイミングで本当に良かったと思うことにするわ」

なるほど、そういうことか、とストンと腑に落ちました。
がんにならないのが良いのは勿論そうなのだが、なってしまったものは仕方ないという事。
母はこの現状をポジティブに捉えて、前向きに立ち向かおうとしていました。

そして「落ち込んだりくよくよするの、時間の無駄じゃない。30分泣くなら30分ドラマ見てた方が有意義な時間が過ごせるって話よ」とも言いました。
「だからあんたたちも心配する事に時間や気力体力を費やすんじゃないの。協力はしてほしいけど、いらん事はしてくれなくて良いから。何かをガマンする必要もないしね」

よく映画やドラマでがんを告知されて立ち直れないくらい落ち込む家族たちが描写されていますが、我が家に関してはそれとは無縁のようでした。
先生も驚いたようでしたが、動じず、今できる事をやるという前向きな姿勢は、少なくとも娘たちは母から譲り受けたようでした。

父も、取り乱したりする様子もなく、冷静に対処していました。
娘2人を呼びつけて「お母さんを全力でサポートするように」とだけ告げて、今まで以上に積極的に家事を手伝うようになりました。
私たちも父を見習って家事手伝いに勤しみ、母はその姿を見て「そこまでしてくれなくてもまだ大丈夫なのに」と笑っていました。

がんの患者会
母と家族のガンとの闘病記

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