身内をがんで亡くした経験はありますが、私自身はがんにかかったことはありませ
ん。しかし、日常の診療のなかで多くのがん患者さんと関わってきました。そのな
かで、がんと診断された患者さんと家族の精神的なサポートが必要であるという実
感があります。

終末期研究の先駆者と言われる精神科医キュブラー・ロスによるとがんを告知され
た患者さんは、5段階の死の受容過程をたどるとされています。

第一に、がんであることを頭では理解しても心が否定し、何かの間違いだと逃避す
る段階です。告知を受け止められないこともあるため、時間をかけることが必要です。

第二に、「どうして自分が」という怒りを感じる段階です。他人への八つ当たりの
ように見えてしまうこともあるかもしれません。周りの配慮が必要です。

第三に、あらゆる可能性にすがろうと思う段階です。効果のない方法や宗教詐欺に
もだまされてしまう可能性があるため、注意が必要です。

第四に、死の回避が困難であることを悟り、絶望や虚無感を感じる段階です。
抑うつ症状を来してしまうこともあり、精神的な医療介入が必要な場合もあります。

第五に、自分の死を受け入れ、死生観を形成し、穏やかに需要する段階です。
この気持ちの変化は絶対的なものではなく、個人差があり、どの段階が良い悪いで
はありません。それぞれの気持ちの時にどのようなトラブルに陥りやすいのかを事
前に本人や家族が知っておくことが大切です。

がん患者さんは一定の割合で、ストレスに対する適応障害やうつ病を来してしまう
とされています。

大切なことはストレス反応は誰にでも起きうることで、それを他人に知られまいと
我慢したり、恥ずべきことと考えたりする必要はないということです。
医師よりも看護師の方が、患者さんの気持ちに近づくことができる場合もあります。

そのため、最近では医療者でチームを組んで精神的なサポートを行う取り組みがス
タンダードになって来ています。
臨床研究でも多職種のチームで診療することが抑うつ症状や生活の質を改善するこ
とが示されています。もちろん、予後が不良な患者さんだとしてもです。

本人のサポートはもちろんですが、アメリカの精神科医が提唱した「社会的再適応
評価尺度」によると、自身の病気よりもパートナーの死の方が克服にかかる時間は
長いとされています。私もそうであるように、がんで身内を亡くした後の家族のサ
ポートがこれから重要になる時代だと感じます。

内科医
村本

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