前回からの続き

実際のところ、疾患の「根治」は極めて難しい課題であり、非外科医療の主流は(
積極的な意味での)「延命」治療であるということについてお話してきました。実
は、この傾向は最近のがん医療においても顕著です。従来、長い間がんは「治る」
か「治らない」かの病気でした。こうした状況が長く続いたわけですが、医療技術
の進歩により「治る」患者さんが増えただけではなく、「治らない」けれども「コ
ントロールできている」という状態にあるがんの患者さんが、徐々に増えてきたと
いうのが現在の状況です。

ところで、HIV感染症の治療の変遷が現在のがん治療の進展の結果とよく似てい
ますのでご紹介します。かつてHIV感染症は「治らない」病気の代表であり、目
立った治療法もなく、長年の無症状期をへてAIDSを発症して死にいたる病でし
た。

そんな中、まずはHIVに対する最初の抗ウイルス薬が登場し、わずかですが
AIDS発症までの時間を延ばすことで、死に至るまでの時間を延ばせるようにな
りました(わずかな延命)。

次に、違うタイプの抗ウイルス薬が開発され、これらを併用することによって延命
期間を徐々に延ばせるようになっていきました(数年の延命)。
さらには、抗ウイルス薬の開発ラッシュが起こり、カクテル療法といわれるほどた
くさんの薬を併用して用いることができるようになりました(10年単位の延命)。
そして現在は抗ウイルス薬を服用している限り、検査上はウイルスが検出されない
状態(=検査上の寛解)にまで持っていけるようになりました(完全にコントロー
ルされた状態)。

つまり、「薬を飲んでいる限り、HIVそのものが原因で死に至ることはない」と
いう状態の患者さんがかなり多くなっているわけです。しかし、実はここまで来て
も「治った」わけではありません。薬の内服をやめると再びHIVが増殖を始めて
しまうからです。いわば「延命」治療には変わりないのです。

つづく

医師 総合診療医/心療内科医/漢方医/産業医
飯島 慶郎(いいじま よしろう)

臨床心理士/産業カウンセラー/認定産業医
総合内科専門医/家庭医療専門医/東洋医学会認定医

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