前回からの続き

このようにHIV感染症治療では、いち早くコントロールを目標とした治療が進歩
してきました。将来HIV感染症については、完全な「治癒」を目指せる治療法も
出てくるでしょう。それを示唆するように、過去には同じように治癒が困難とされ
ていた慢性ウイルス性肝炎を比較的簡単に治癒させることができるようになってき
ています。

ここで、(手術で根治が不可能な)がん治療のほうに目を戻してみましょう。こう
した根治不能がんについて歩みは遅いもののHIVや肝炎ウイルス治療と「同じよ
うな段階的な治療目標の変遷」をたどっていくと仮定を置いてみると分かりやすく
なります。

(1)短期間(月単位)の延命(≒狭義の延命治療)の時代

(2)中期間(年単位)の延命の時代

(3)長期間(十年単位)の延命の時代

(4)治癒ではないがコントロールされた状態(≒数十年単位の延命)の時代

(5)治癒の時代
これは仮定に基づいた概観にすぎないのですが、治療の進歩を理解するにはよい指
標となるでしょう。実際、筆者が医師になった20年前頃は(1)の時代、現在は
(2)から(3)への移行期であるという実感があります。また、新しい画期的な
治療技術の登場(イノベーション)が、がん治療の目標を次の段階に推し進めると
考えると、さらに理解が促進されます。

たとえば、(1)から(2)へ移行には「多くの抗がん剤の臨床応用」が関係して
いたと考えることができます。一般に抗がん剤に関しては、初めは効果があります
が、いずれはがんが耐性を獲得するため、別の薬剤に変える必要が出てきます。つ
まり、適用可能な抗がん剤の種類が多ければ多いほど、延命期間の延長に寄与する
わけです。

そして、まさに現在の(2)から(3)への変化は、抗がん剤の「質的」なイノベ
ーションによるものではないでしょうか。具体的には、「分子標的薬」と呼ばれる
新しい系統の薬剤の登場が、この変化を起こすものと考えられます。

つづく

医師 総合診療医/心療内科医/漢方医/産業医
飯島 慶郎(いいじま よしろう)

臨床心理士/産業カウンセラー/認定産業医
総合内科専門医/家庭医療専門医/東洋医学会認定医

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