前回からのつづき

しかし、あなたがもっと情報を収集し、最早期のがんといえども根治率は100%ではないというデータに出会えば、ふと「もしかして自分こそが、わずかな割合の再発患者になるのかもしれない。自分は昔から、ここぞという勝負には弱かった…」という悲観的な自分の声が聞こえてきたりするかもしれません。こうした考えを振り払おうとすればするほど、逆に頭から離れなくなったりすることもあるものです。こうしたときには、この「死のリアリティのかけら」は客観的に見て適切だと思われる大きさよりも、はるかに膨らんで感じられることでしょう。

もし、あなたが受ける治療が首尾よく進んでいけば、この「かけら」は徐々に小さくなっていくでしょう。しかしそのタイミングで、身近に感じていた有名人が、がんとの闘病の末に亡くなった、などという報道があれば、急にそれは「かけら」とは呼べない大きさとなり、あなたの視界いっぱいを覆いつくすかもしれません。

こうして、治療や療養の経過を通して「死のリアリティのかけら」が膨らんだり、縮んだりとダイナミックに変化していきます。このこと(「かけら」の大きさの変化そのもの)は、そのたびにあなたの心に新たな適応を要求します。つまりふとしたきっかけであなたの心は不安定になり、新しい心の安定を獲得するまでに、大きなエネルギーを必要とすることになるでしょう。今後、度々あなたはこの種の「揺さぶり」を経験することになるかもしれません。

ここまで、がんがあなたに引き起こす「揺さぶり」について概観してきました。がんと診断されたその瞬間から、多くの事柄があなたを揺さぶり始めます。その揺さぶりは心理的、社会的なさまざまな分野にまたがり、継続的に対処をもとめられる性質のものが多いでしょう。がんを乗り越える、もしくはがんと付き合っていくうえで、こうした揺さぶりを軽減し、周囲や社会の援助を上手に引き出していくことが大切になってきます。

つづく

医師 総合診療医/心療内科医/漢方医/産業医
飯島 慶郎(いいじま よしろう)

臨床心理士/産業カウンセラー/認定産業医
総合内科専門医/家庭医療専門医/東洋医学会認定医

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