前回からの続き

クライエント中心療法とは違い、これらの力動的精神療法ががん療養そのものの助
けになることは例外的かもしれません。しかし、がんにり患するという大きなイベ
ントがきっかけとなって、それまで表現されてこなかった心理的なテーマが顕在化
してくることは、ままあり得ることです。

例えば、クライエントがずっと乗り越えられずにいた両親との葛藤が再燃するとか
、冷え込んでいた配偶者との関係がより悪化して離婚危機に遭遇するといった事態
です。クライエントにとってはがん自体の苦しみとともに、こうした問題とも直面
して非常につらい状況を体験することになります。

場合によってはがん自体の苦しみよりも、こうした葛藤のほうこそが、つらさの主
因になることもあるかもしれません。セラピストが時間をかけてでも、クライエン
トの抱える心理的テーマそのものにアプローチするほうが良い、と判断した場合に
はこの種の精神療法が用いられることもあるでしょう。

このように力動的精神療法を用いる場合は、がんそのものの苦しみを直接相手にす
るというより、それまでクライエントが人生において先送りにしてきた心理的課題
を見つめなおすことで、新しい適応状態を作るのが目標となります。

この治療法はセラピストに極めて高度な技能を要求するとともに、かなりの時間を
必要とします。しかし奏功した場合には、人生観そのものが変化するほどのインパ
クトを持ち得るとともに、「スピリチュアルな癒し」の入り口の役割も果たします
。ですから、自分自身を深く理解したいと願っているクライエントには、とても良
い選択枝となるでしょう。

つづく

医師 総合診療医/心療内科医/漢方医/産業医
飯島 慶郎(いいじま よしろう)

臨床心理士/産業カウンセラー/認定産業医
総合内科専門医/家庭医療専門医/東洋医学会認定医

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