スポーツの世界では「親子鷹」という言葉があるように、優れたアスリートの親からはまた優
れたアスリートが生まれると往々にして考えられます。しかしその逆、「鳶が鷹を生む」という
ように、平凡な親から才能あるアスリートが生まれることももちろんしばしば起こります。スポ
ーツの才能は果たしてどこまで「親の血」によるものなのでしょうか。今回はその疑問に関連
した研究結果を紹介します。

■精密な文献調査(システマティックレビュー)の結果
運動能力の遺伝率(個人の特徴にどのくらい遺伝要因が作用するか)について、過去に発表
された研究論文などの精密な調査(システマティックレビュー)が2016年に行われています
(※1)。その結果得られた、運動能力の遺伝率の調査結果の幅と平均を以下にまとめます。

・競技力の遺伝率…66%(該当した文献1例のみ)
・持久力の遺伝率…0~93%の間、平均56%
・筋力の遺伝率…0~98%の間、平均55%

上記のように、運動能力の遺伝率に関しては各研究によって得られた結果に大きなばらつき
があり、一貫した結果は得られていないようです。「親子鷹」も「鳶が鷹を生む」も、どちらもあ
りうるということかもしれません。

ただし、親から譲り受けたか否かは別として、やはり生まれ持ったものは運動能力に影響す
るでしょう。背が高く筋肉質な体ならば格闘技で有利なのは間違いありませんし、背が低く細
身ならば、競馬のジョッキーに向いていると言えます。少なくとも言えることは、ある人がある
スポーツに向いているか否かは、その親を見るだけではわからないということでしょう。

■手軽な遺伝子チェックができる時代だからこそ心に留めるべきこと
昨今では遺伝子検査キットが市販されており、誰もが手軽に自分の遺伝的な傾向を知ること
ができます。しかし、そんな時代だからこそ身に着けておくべき「考え方」があります。

たとえば遺伝子検査の結果、「あなたは、普通の人の集団と比べたとき、短距離走選手の集
団において2倍の頻度で見られる遺伝子を有している」という結果が出たとします。こうしてみ
ると「自分は短距離走に向いている」と思いがちですが、たとえばその遺伝子を有する人の頻
度が普通の人の集団では2%、短距離走選手の集団では4%であり、それを以て2倍と結論づけ
られいたとしたらどうでしょう。この場合言い換えれば、短距離走選手の96%はその遺伝子を
持っていないことになります。

上記の例を、病気になりやすい遺伝子に置き換えてみましょう。たとえばある病気になった人
の集団が普通の人の集団より2倍の頻度で持っている遺伝子をあなたが持っていたとしても、
上記の例のようにその差は微々たるものかもしれません。にもかかわらず、その事実を知ら
なければ、あなたは「2倍」という数字にとらわれ、不安にかられるかもしれません。正しく心配
するためにも上記のような考え方は必要となるでしょう。

※1
村上晴香, 膳法浩史, 宮本(三上)恵理ら : 運動能力・運動行動の遺伝率. 体力科学, 65 : 277-
286, 2016.

医療者編集部
スポーツ医学と運動科学ラボ

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