医師の仕事のなかでも特に責任を感じるのは、患者さんに「あなたはがんです」と伝える、いわゆる”告知”の場面です。

伝え方によっては、患者さんに希望を持たせることもできれば、逆に信頼を失ってしまうことにつながりかねません。

患者さんの受け止め方は人それぞれであり、治療に前向きな姿勢を示す人もいれば、心理的な負担が大きく泣き崩れてしまい話が続けられなくなる人もいます。

そのなかでもおそらく半数以上の人が、「自分ががんになるはずがないと思っていた」という反応を示します。

心理学では(正しいかは議論の余地がありますが)、楽観主義バイアスという概念も存在します。楽観主義バイアスとは、人はがんになるなどの悪い事を実際に起きる確率より低く見積もるという意識の偏りです。楽観主義によって、ストレスを切り抜けることもできますが、健康問題の落とし穴にはまってしまう原因にもなります。

もちろん喫煙者が100%肺がんになる訳ではありません。しかし、「身の回りで”たばこを吸っていて肺がんにならなかった人”が1人いたから、自分も同じように肺がんにならないだろう」と、思うことはまさしく”楽観”的です。

過去のデータからは、たばこを吸う男性が肺がんになる確率は、たばこを吸わない男性の4.4倍です。この数字を多いと思うでしょうか。それとも、これでも自分は肺がんにならないと思うでしょうか。

日本は欧米に比べてたばこを吸い始めた時期が遅いため、今後さらに肺がん患者は増えると予想されており、喫煙者の肺がんリスクは4.4倍よりさらに増える可能性があります。

もう1つの落とし穴は、たばこを吸ってかかる病気は肺がんだけではないということです。他の種類のがんや、脳梗塞・心筋梗塞と言った病気を抱える危険性もあります。肺炎にかかった時に、非喫煙者に比べて重症化しやすいという危険もあります。

人は誰しも何かきっかけがないと、喫煙習慣や食生活などを見直す機会がないことは十分承知です。家庭環境・仕事などでやむを得ない場合も多いため、医師が強制的にやめさせることも困難です。

ただ、もしあなたが少しでも健康について興味を持ち始めたなら、行動を変える一歩を踏み出すことが重要です。

子供が生まれたタイミングや、定年するタイミングなど行動を変えるチャンスは思ったよりもあると思います。そして、”検診”で異常を指摘された時というのも見逃してはいけないタイミングです。

内科医
村本

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