今回は、前立腺がん治療の主軸の一つであるホルモン療法についてお話したいと思います。

■前立腺がんは男性ホルモンによって制御される
そもそも前立腺は、普段は精液の一部を作っている臓器です。前立腺が形成され、大きくなる
過程では男性ホルモンが大きく影響することが知られています。

前立腺がんも、前立腺の一部から発生する病気であり、例外ではありません。実際に、ほと
んどの症例では男性ホルモンのシグナルを受け取るアンドロゲン受容体が発現しています。
ちなみに、前立腺がんのマーカーとしてよく用いられるPSAも、アンドロゲン受容体がシグナ
ルを受け取ることで作られるタンパク質のひとつです。

■ホルモン療法によって男性ホルモンをブロックすると前立腺がんが縮小する
前立腺がんが男性ホルモンによって大きくなるならば、それをブロックすることで前立腺がん
の増殖を抑えようというという治療方法が、ホルモン療法です。

ホルモン療法を行うケースは、主に下記の通りです。
➀転移のある前立腺がん
➁転移はないが、高齢もしくは合併症があって、手術や放射線治療が困難な場合
➂放射線療法との併用(放射線治療の効果を高める場合)

■ホルモン療法の薬
ホルモン療法としては、外科的去勢と薬物療法があります。

外科的去勢とは、両側の精巣を摘除するものです。体内で作られる男性ホルモンのほとんど
は精巣から作られますので、それをとることで男性ホルモンの作用を抑えるというものです。
一度手術をすればそれで済みますので、金銭的な面では最も低コストです。効果も薬物療法
と遜色ありません。しかし、いわゆる去勢術であり、心理的に抵抗がある人もいらっしゃいま
す。

薬物療法としては、大きく分けて2種類の薬があり、日本では多くの場合でそれらが併用され
ます。ひとつは、下垂体に作用して男性ホルモンを作る刺激が出ないようにブロックする薬
(LH-RHアゴニスト:リュープロレリン、ゴセレリン、LH-RHアンタゴニスト:デガレリクス)です。
もうひとつは、男性ホルモンの受け手側であるアンドロゲン受容体にふたをしてブロックする
薬(抗アンドロゲン剤:ビカルタミド、フルタミド)です。

他に、クロルマジノン、エストラムスチン、エチニルエストラジオールといった薬もありますが、
下記に述べる新しい薬が発売され、使われる機会はやや減ってきています。

■新規ホルモン剤
・イクスタンジ
抗アンドロゲン剤の一種ですが、ビカルタミドよりも効果が強力で、かつ受容体が遺伝子に作
用しようとする働きもブロックします。
・アビラテロン
男性ホルモンはコレステロールを原料として合成されますが、その合成に関わる酵素をブロッ
クするものです。ただし、男性ホルモン以外のホルモンも減少しますので、ステロイドホルモン
を内服する必要があります。
海外ではこれらの他にも新しいメカニズムのホルモン療法薬が存在し、いずれ日本でも承認
されると思われます。

■ホルモン療法の副作用
ホルモン療法の副作用は、抗がん剤のようにひどい吐き気がしたり、髪の毛が抜けたりする
ようなものではありません。
抗アンドロゲン剤の副作用としては、肝機能障害が一番懸念されるもので、LH-RH製剤に特
徴的な副作用として、注射部位の皮下硬結があります。他に、ホルモンのバランスが変わり
ますので、乳房痛やホットフラッシュなど、更年期障害のような症状が出ることがあります。

■まとめ
前立腺がんは、ホルモン療法を行うことで多くの場合、縮小します。多くは数年、長ければ10
年以上にわたってコントロールすることが可能です。しかし、完全にがん細胞を消失させるま
で至ることは少なく、いずれ再度増殖に転じることがしばしば起こります。

外科的または薬物的去勢を行って、しっかり男性ホルモンの数値が下がっているにも関わら
ず進行する場合、去勢抵抗性前立腺がんと呼びます。この去勢抵抗性前立腺がんになると、
ただ単純に男性ホルモンをブロックするだけでコントロールできる状態ではなくなってきます。
去勢抵抗性前立腺がんについては、また別の記事でお話したいと思います。

医師 泌尿器科専門医/日本泌尿器科学会所属
鈴木

研究機関でがんの研究を行いつつ、在宅医療でがん患者さんの診療・お看取りなども行っています。

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