これまでの連載で、医学研究や医療現場においてAIが幅広い応用可能性を持つことを見て
きました。最終回の今回では、多くの人々が気にしているであろう、人間の仕事がなくなること
を危惧する「AI脅威論」について考えていきます。AI脅威論への答えは、医療とAIの関係性を
考えることで出てくるかもしれないのです。

■「弱いAI」と「強いAI」
そもそもAIには「弱いAI」と「強いAI」があることをご存知でしょうか。

これまで紹介したAIとは、MRI画像の読影のような、ある特定の仕事のみに特化してその分
野では人間並みの、あるいは人間を凌駕するようなパフォーマンスを発揮する「弱いAI」と呼
ばれるものです。一方で人間のようにマルチタスクをこなすことができ、かつコミュニケーショ
ンもできるようなAIは「強いAI」と呼ばれており、いまだ実例すらありません。

弱いAIとは端的に言えば人間の道具です。ゆえに、発展するのが弱いAIだけである限り、AI
を利用するのは常に人でありつづけることでしょう。現在すでにさまざまな機器が存在し、私
達人間はそれらを利用し仕事を効率的に行っているのと同様です。つまり、弱いAIしか発展し
ない限りは、人の仕事はなくならず、むしろ便利な道具として仕事を楽にしてくれるであろうと
いうことです。医療業界にあてはめると、激務である医療行為を一部機械が代替することで、
より正確な診断かつ人間の負担の軽減が見込まれるということです。

■「強いAI」ができたら?
では、もし「強いAI」が生まれたら、病院や介護施設には患者以外の人間がいなくなる、という
ような未来が待っているのでしょうか?

おそらくそれでも、人間の医療従事者は必要とされるでしょう。

それは、AIには、ケアの精神の獲得は難しいと考えられるためです。患者さんに寄り添い、精
神の機微を感じ取り、ケアをすることを、人間ほどAIはうまくできるでしょうか。

これは、医療業界がサービス業になる、という予想とは少し異なります。確かに現在でも医療
業界にはサービス業の側面があるとしばしば指摘されます。しかし、そもそも人の健康におい
て精神面からの影響は非常に大きいと考えられ、そのため、適切な医療行為をする際に、バ
イタルチェックなどの検査結果の数値以外に、精神的健康も判断材料に含んだ総合的な判
断が求められます。ゆえにやはり、人への治療方針を決定するのは、人のことがわかる人間
の医療従事者が適任なのです。

■人については、人にしかわからない
AI脅威論を論じる上で「人間にしかできないことは何か」と議論されますが、そのうちの一つが
、人間について理解できることなのではないでしょうか。人間として生きることができないAIが
いかに発展しようとも、人間よりも人間を深く理解できるとは想像しにくいでしょう。
AI社会における医療業界に人間の役割を考えることは、AI脅威論に対する一つの答えを出
すのではないでしょうか。

AI研究が最もホットな領域である医療業界。それとAIとのコラボレーションを見ていくことは
、AIの技術的な発展の理解のみならず、AI時代においてどう生きるべきかをも人間にもたらし
てくれることでしょう。この連載を通して読者の皆様の考えが深まったのならば、これ以上ない
喜びです。

医療者編集部
医療AIラボ
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