今回も前回に引き続き遺伝性がんについてお話したいと思います。前回までお話ししたよう
に非常に難しいテーマである遺伝性がんに対して、治療の面ではどうなっているのでしょうか。

◆ 遺伝性乳がんへの治療薬「オラパリブ」
2018年7月2日に発売されたオラパリブ(商品名:リムパーザ)は乳がん治療に登場した初め
ての遺伝性乳がん治療薬です。PARP(パープ)阻害薬といわれるこの種類の薬剤はどのよう
に効果を発揮するのでしょうか。

通常、わたしたちの遺伝子は紫外線などで日常的にダメージを受けて損傷していきます。遺
伝子は2本の鎖が連なっているようにして構成されていますが、この1本の遺伝子の一部が損
傷をうけること(一本鎖切断)と、2本の遺伝子の一部がセットで損傷を受けてしまう(二本鎖
切断)の2パターンが存在します。それぞれに遺伝子を修復する機構があるのですが、一本
鎖切断を修復する「塩基除去修復」を担うタンパクがPARPです。一方、二本鎖切断を修復す
る「相同組換え修復」を担うのがBRCAタンパクやATM、RAD51といわれるタンパクらです。

BRCA1/2遺伝子が正常に働かないBRCA変異乳がん細胞中では、「相同組換え修復」がうま
く働きません。ただし、PARPによる「塩基除去修復」は可能であるため、一本鎖切断の多くは
速やかに修復され、二本鎖切断への進展は少なく、細胞の生存が可能だと言われています。

ここにオラパリブが投与されPARPが阻害されると、BRCA変異をもつがん細胞ではPARPが
機能しないため「塩基除去修復」ができず、BRCAが機能しないため「相同組換え修復」もでき
なくなり、細胞死が誘導されます。これが抗腫瘍効果となります。

しかし、正常細胞においてはPARPが機能しなくてもBRCAがきちんと機能するため、細胞死
に向かわず生存することができます。

◆ 臨床試験での効果
BRCA遺伝子変異陽性・HER2陰性の転移乳がん患者に対して、国際的な臨床試験が行われ
ました。オラパリブと従来の化学療法(カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン)との比較が行
われた結果、従来の化学療法に比べて病勢進行・死亡のリスクが42%減少することがわかり
ました。副作用としては悪心、貧血、嘔吐がみられたということです。

ここまでお話ししたとおり、遺伝性がんというのは非常に難しい問題です。
医療側においても未だ体制が十分に整っているとはいえず、検査自体においても家族への
影響などクリアしなくてはならない問題が多く存在します。そんななか、オラパリブが遺伝性が
ん治療薬という位置づけで登場した意義は非常に大きいと思われます。

現時点で遺伝性がんの問題をすべてクリアできるほどの治療薬とは言い難いのもまた事実
ですが、これが呼び水となり、治療体制の発展が進むことを祈ります。

薬剤師
深井

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