ここまで2回かけて、喫煙がアスリートに与える悪影響を紹介してきました。喫煙が心臓や肺
に負荷をかけてしまうことは、単にアスリートに限った話ではありません。また、喫煙は筋肉に
対しても、酸素不足を助長させる因子となります。心臓・肺・筋肉において、酸素を取り込めず
効率的に利用できないという、アスリートにとっての喫煙のデメリットを理解していただけたか
と思います。アスリートの喫煙に関する最後のコラムとなる今回は、大脳と認知機能について
紹介します。

■大脳への影響
カナダの大学において、高齢者約500人を対象に喫煙と大脳皮質の厚さの関係を調査した研
究が発表されています。喫煙歴は「喫煙したことがない人」、「かつて喫煙していたが禁煙した
人」、「継続的に喫煙している人」の3つの群に分けられ、MRIを用いて大脳皮質の厚さをそれ
ぞれ調査されました。

結果として、「喫煙したことがない人」、「かつて喫煙していたが禁煙した人」、「継続的に喫煙
している人」の順に、大脳皮質が薄くなる傾向が見られました。大脳皮質は、認知機能と深い
関係をもっている組織として知られています。したがって、喫煙を継続的に行なっている人は
、大脳皮質が薄くなり認知機能の低下が生じていると考えられます。

■スポーツと認知機能
スポーツにおける認知機能に関しては、クローズドスキルとオープンスキルという分類が多く
用いられます。クローズドスキルとは、安定した予測可能な環境のもとで発揮されるスキルで
、オープンスキルとは、変化のある予測不可能な環境のもとで発揮されるスキルです。オープ
ンスキルは、対戦相手と相対している場面で用いられ、その際には認知機能の働きが非常に
重要と考えられています。

サッカー、野球、バスケットボール、バドミントン、ラグビーなど、オープンスキルが求められる
スポーツを、オープンスキルスポーツと呼ばれますが、このオープンスキルスポーツにおいて
は特に認知機能が重要です。試合展開や戦術をもとに、味方・相手選手の位置、ボール(そ
の他の用具)の位置を認識し、その上で自らの体をどのように・どの方向へ・どの程度の強さ
やスピードで動かすかを考慮する必要があるためです。

前半では、喫煙によって大脳皮質が薄くなり、認知機能の低下が生じる可能性に関して紹介
しました。オープンスキルが必要とされるスポーツでは、この認知機能の低下がパフォーマン
スを下げてしまう可能性が考えられます。

喫煙は、心臓・肺・筋肉への悪影響ではなく、脳の機能までも低下させる要因となることを理
解していただけたでしょうか。アスリートがたばこを吸うということは、がんなどの疾病の発症
率を上げるだけではなく、多方面での悪影響を与えるのです。

Jリーグクラブ・アスレティックトレーナー / 修士(体育学)
下田 源

大学院にて体育学(スポーツ医学)の修士号を取得後、同大学研究員等を経て、
Jリーグクラブのアスレティックトレーナーに就任。
アカデミーからトップチームのトレーナーを歴任し、幅広い年代の選手に対するコンディショニング・フィットネス・リハビリテーションを担当。
また、アスリートだけではなく、一般の方を対象としたトレーニング・フィットネス・コンディショニング指導も実施中。
資格
:日本体育協会アスレティックトレーナー
、NSCA公認ストレングス&コンディショニングスペシャリスト
、高等学校教諭(保健体育)


PAGE TOP