■がんの治療について

「がん」と診断された場合、より具体的な精査を進め、病期(進行度)やがんの性格を調べることになります。その結果から、手術療法、がん薬物(抗がん剤・分子標的治療薬・ホルモン剤・免疫チェックポイント薬)療法・放射線療法・緩和ケアを組み合わせた集学的治療が提案されます。

がんの進行度や、がん種(臓器別)によっては、治療は治癒目的、延命目的、緩和目的と治療の目的は異なってきますので、治療前の医師の面談前には、ご家族や頼りになる人につき添ってもらい、十分納得してから治療に望めるよう、不安なことは解消できるよう、質問事項をまとめておきましょう。

医師をはじめ、医療関係者は、できる限り分かりやすい言葉を用いて説明するよう心がけておりますが、往々にして、「先ほど言っていた○○についてよくわからなかった」と、診察後に看護師に質問する人も多いようです。

前回は、主治医は患者さん一人ひとりのライフスタイルやご希望を尊重しながら、より適切な治療法を、ガイドライン(標準治療)に照らし合わせて提案されるとお伝えしました。標準治療と聞くと、もっと良い治療があるのではないか…とおもってしまう人もいるかもしれません。

2019年2月に「がんになる前に知っておくこと」という、ドキュメンタリー映画が上映されました(順次全国公開中)。がんサバイバーだけでなく、遺族、がん医療に携わる医療関係者が多数出演し、根拠・出典に基づく情報を発信されています。そのなかで、「標準治療」とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最善の治療である事が示唆されていました。

また、手術後に抗がん剤が提案された場合、がんを経験した親族や知人から、民間療法に頼る患者さんも少なくない現状があります。あくまでも、私の経験的な私見ですが、主治医に伝えるのには後ろめたさがあるようで、看護師との日常の会話の中で、「実は…このようなもの(サプリメントや健康飲料)を飲んでいるんです。一日これくらいお金がかかるんです」と話される人もいました。主治医の治療を受けたくないのではなく、がん細胞を減らすために、自分でも何かできる対処法を取り入れたいと思いからの対処行動であるのだろうと思います。

外来には、日々多くの患者さん・ご家族が緊張した面持ちで、朝早くから待合室にいます。とても張り詰めた緊張感が伝わってきます。また、外来診療の開始時間には、医療スタッフが行き来する姿もあわただしく見えることでしょう。
 
私は今、がん薬物療法を受けている患者さんの外来で、問診や生活支援に携わっています。慌ただしくみえるときは「こんなことも相談していいの?」「あなた、忙しいでしょ?」と、患者さんが気をつかってしまいます。しかし、「今日は○○さんの診察の時間までの15分間、時間を設けましたので、お話を聞かせていただけませんか?」と、体調確認ではなくオープンクエスチョンで会話を進めて行くと、思いもよらぬ患者さんの日常生活での回復状況や職場、社会現場、趣味での活躍がうかがえるのです。

病気の話をしている時と比べ、仕事やお子さん、お孫さん、趣味のお話をしている患者さんのうれしそうな表情は、医療者にとってはうれしいご褒美です。社会生活の情報は、治療を進めて行く上ではとても重要な情報となるため、主治医をはじめ医療スタッフとも共有させていただいています。もちろん、「秘密にしてね」と言われたことは心にしまっておくこともあります。

■治療に入る前に必要な社会資源を知り、手続きを忘れずに行いましょう

「がん」と診断されると、医師からの説明と同意(インフォームド・コンセント:以下ICと略す)が行われた後、心の落ち着く間もなく、どんどん追加の検査や治療が進められていきます。患者さん・ご家族は、ICの後、「はい、よろしくお願いします」「お任せします」とおっしゃることが多いのですが、十分に理解されていないことが多く、混乱しているようにみえます。

「なぜ、がんと診断されたら治療を急ぐ必要があるのか?」それは、病気の性格や進行の度合いにもよりますが、病勢を一刻も早く食い止め、少しでも早いうちに元の生活に戻れるように、場合によっては少しでも延命や緩和が望めるようにという医療者の願いが込められています。

このような流れを想像すると、体調が悪くなり受診、検査が進み、告知され入院。治療が始まり、初期治療の場合でも一定期間の治療が必要となります。また、切除不能・進行再発がんの場合は治療効果が無くなるまで、さまざまな薬剤の組み合わせで治療法を変えて、治療を続けて行くことになります。(もちろん、ご本人やご家族と十分な話し合いのもとに進めて行くことになりますが)

がんの治療にかかる医療費は、予想をはるかに超える額となります。1日の点滴で数十万円かかるがん種も多くなりました。そのため、多くの医療機関では、治療が必要となった際には、限度額適用認定証注1)療養費制度のご案内をする施設が多くなりました。

私がまだ看護師5年目だったある日、血液がん患者さんの家族から、涙ながらに相談がありました。その頃は、現在のように、限度額適用認定証が入院には利用できず、高額療養費制度(申請し、3カ月後くらいに一定額返金される)制度の時代でした。奥さんは看病に必死で、そのような制度の事は知りませんでした。そのため、患者さんが会社員時代にためた貯金と退職金を切り崩した上に、2割で高額な医療費を支払い続け、ついに貯金が無くなり、病院の支払いも滞っているとの事でした。

そのころは、私は入院されていた患者さんを看ることに必死で、ご家族の苦悩まで、気が回りませんでした。何カ月もの間、苦しめてしまっていたことに、奥さんからの声でようやく気付いたのです。すぐに関連職種と連携を取り、お金の問題は解決しましたが、何ともつらい思いをさせてしまったと、今でも教訓として忘れずに覚えています。

現在私は、初回からの面談や問診で、お困り事はないのかを伺い、どのような社会資源を利用したら、この方にとって最善の療養生活を送ることができるのだろうかと考える日々を送っています。

■がんの治療が始まることが決まっても、仕事をすぐに辞めないでください

がんと診断された患者さんは、「仕事を辞めなければならない」と考える人もいるのではないでしょうか?私は、これまでに、がん薬物療法をすると決まってから、「退職届を提出し、昨日受理されました」という複数の患者さんに会いました。何十年も働き続けて来た職場を潔く退職されてきたのです。あぜんとした記憶が今でも残っています。後にその人たちは後悔することになるとはそのときは思いませんでした。

がんに関しては、一般的にはいまだにテレビドラマや映画、壮絶なドキュメンタリーのイメージが強くあります。私自身、「がんになったことがないあなたには、私の苦しみが分かるの?」と言われることもあります。分かろうとしても、当事者しか分からないことは事実ですが、看護師だからできる距離感でサポートしたいと、患者さんにはお話ししています。

現在は、がん薬物療法の支持療法(副作用対策)が進化し、だいぶ日常生活が楽に過ごせることが多くなってきました。がん種によっても病期(進行度)と顔つきは人それぞれですか、不治の病ではないのか等、誤解が多いことがいまだにあります。しかし、昨今では、がんサバイバーを支える企業が増えているのも現実です。

まずは、勤務先の産業医に相談し、働き方の相談をすることをお勧めします。大事なプロジェクトを抱えていらっしゃる人もいらっしゃるでしょう。今、まさに受験生を抱えている生徒を担当している教師もいらっしゃるでしょう。食堂で、たくさんのお客様においしい食事をふるまっている人もいらっしゃるでしょう。

就業可能な場合は就業可能なこと・または軽減勤務に関して、就業が難しい場合は休職に関する診断書を書いてもらい、治療に専念できるように、仕事の引き継ぎをできるよう準備を進めて行きましょう。今までの仕事を続けるために、サポーターをつけてもらうことも良い方策かもしれません。もちろん、有給休暇を使いながら今まで通り勤務する方、在宅ワークに移行してもらう方等さまざまです。じっくり職場の方と話し合って決めてください。

長期戦でありますが、あなたは、家庭、地域、職場では大切な存在です。仕事をすぐに辞める、という決断はまず横に置いておいて、先ほど述べたように、勤務軽減や休職制度を利用するようにしてみてください。

年次有給休暇や公的制度の傷病手当金(1年6カ月:規定あり)、時短制度などを活用する方法もあります。また、障害年金は全ての疾患を対象としています。がんの中で抜粋すると、人工肛門造設の場合、造設日から6カ月後、喉頭全的術の場合は摘出日が障害認定日となります。

がんサバイバーの人々が、前向きに療養生活を送れるよう、必要な社会資源を利用し、仕事や
金銭面の不安・負担を少しでも解消できることを願っています。そのため、院内の医療相談窓口
(社会福祉士・医療ソーシャルワーカーなどが在籍)、がん診療連携拠点病院に配置が進んでいる社会保険労務士や、各都道府県社会保険労務士会、または年金事務所に相談に行かれることも一つの手段と言えます。

治療が決まった際、動揺するのは当たり前の反応です。一呼吸おいて、そういえば、相談窓口があったな、何か使える手段があったな、と言ったように日ごろから相談窓口や連絡先をメモしておくとよいでしょう。困ったときは、まずは通院先の相談窓口へ相談してみましょう。

引用・参考文献

1)がん患者のメンタルケア 川名典子 南江堂 P72-73  2014.第1版
2)がんになる前に知っておくこと 映画パンフレット (株)上原商店 2018 監督・撮影・編集 三宅流 
3)緩和ケア 1 Vol29 No.1 2019 特集 お金とリアルな支援 青海社
4) http//www.shakaihokenroumushi.jp

注1)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/gairai_sinryou/dl/120110-01.pdf

がん化学療法看護認定看護師
かみうせ まゆ
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