化学療法は、からだ中に拡散したがん細胞を倒す、いわば飛び道具のような治療戦
略です。医療の中でも進歩の早い分野であり、3年前の常識が時代遅れになります。
抗がん剤は髪が抜けて、気持ち悪くなってと副作用のイメージが強いかもしれませ
んが、今は昔と比べて副作用の少ない抗がん剤が開発され、外来通院でも行えます
。
抗がん剤は大きく2つに分けられます。
がん細胞は増殖が速いという特徴を持っていることを利用して、細胞分裂が早い細
胞を目標にした殺細胞性の抗がん剤と、がんが成長する上で重要な分子を狙って攻
撃する分子標的薬と呼ばれるものです。
前者は成長が早い細胞を狙うため、髪の毛や腸上皮などのからだのなかで成長が早
い細胞も攻撃してしまいます。そのため髪が抜けたり、下痢・吐き気をおこしたり
してしまうのです。
後者は、抗体を用いてがん細胞が増殖するのに必要なシグナルを担う分子のみを使
えなくするため、副作用が少なく、がん細胞にその分子がたくさん出ているほど(依
存度が高いほど)、効果があります。しかし、値段が高いというデメリットもありま
す。
最近はやりの免疫チェックポイント阻害剤も後者に含まれます。これは自分の免疫
細胞をかいくぐるための分子を阻害することで、自分の免疫力でがん細胞をやっつ
けられるようにするという仕組みです。いろいろながんで効果が証明されています
が、免疫機構が活性化しすぎることによってさまざまな臓器障害の副作用も報告さ
れています。
抗がん剤の使いどころは、手術でがん細胞の原発巣を取ったあと、再発を防ぐため
に使うのがまず1つです。
抗がん剤でがんのかたまりを小さくすることで手術が行えたり、放射線治療と併用
することで相乗効果を示したりすることも知られています。しかし、リンパ腫など
の血液がんを除いて、化学療法だけでは根治に結びつけることは難しいという欠点
があります。
がんの増殖をおさえることで、寿命を数カ月から数年間伸ばすことはできます。し
かし、手術や放射線治療ができない進行したがんの場合、化学療法の効果は限定的
です。
抗がん剤ではやっつけきれないがん細胞が再発をおこしたり、徐々に抗がん剤が効
かなくなったり、薬を変えても副作用が効果を上回ってしまったりすることで、治
療がおこえなくなってしまうのです。
新しい薬の開発や薬をどれだけがん細胞に届けられるかの研究が進んでいます。